★あらすじ 金が入って品川宿のなじみの女の所へ遊びに行く男。ほろ酔い加減で、機嫌もよく気も大きい。増上寺の鐘を聞きながら、芝山内の追いはぎの出るというさみしい所へさしかかると、「おい、待て」と声がかかる。
てっきり追いはぎと思いきや、背の高い侍だった。「何かようか、おじさん」と問うと、「麻布にめえる(参る)には、どうめえる」と田舎なまりで聞いてきた。
追いはぎでなくほっとし、田舎侍と見くびった男は、「丸太棒、ぼこすり野郎、かんちょうれい、二本差しが怖くて焼き豆腐が食えるか」と言いたい放題、悪口雑言を浴びせ、悪態をつき始める。
さらに調子に乗った男は侍に痰(たん)を吐きかける。身をかわした侍は「行け」というが、男は図に乗ってまた、痰を浴びせた。これが侍の羽織にかかった。殿様から拝領した大事な羽織を侮辱され、堪忍袋の緒が切れた侍、腰をひねって抜き手も見せない居合腰で、男の首を斬って、そのまま立ち去る。
首を斬られたことも知らずに品川に向かう男、「広い世間にあなたがいなきゃ、こんな苦労はしやすまい」なんて鼻歌まじりだが、声が漏れる。首も横から後ろへ回り始めた。グラグラして来た首にさわると血がべっとり、やっと斬られたことが分かった男、首をささえながら歩いていく。
すると前方で半鐘の音、大勢の人が邪魔だ、邪魔だと駆け出して来て大混雑で、壊れ物の首が危ない。困った男、自分の首をひょいと差し上げると提灯がわりに、
「はいごめんよ、はいごめんよ、はいごめんよ」
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