★あらすじ 皮肉屋で人の嫌がることを言って楽しむのが大好きな熊五郎が、かつぎ屋の与太郎の所で赤ん坊が生まれたと聞いて嫌がらせにやって来た。
今日はお七夜だが、熊公が来ると縁起が悪いことばかり言うので知らん顔で黙っていると、「一家全員、死に絶えたか」と嫌がらせの開始だ。仕方なく戸を開けると「入口が狭くて、死人が出たとき早桶が通らない」と入って来て、「家の中が陰気臭くて、焼き場に行ったような気分だ」。
与太郎が今日は目出度い日だから帰ってくれと頼むと、熊公は「赤ん坊の初七日か」と、赤ん坊の寝ている所へ行き、これは小さくて今にも死にそうな青ん坊だと容赦ない。
熊公は「もう戒名はつけたか」と縁起でもない言い様だ。与太郎は初めての女の子でお初とつけたと言うと、熊公は「万一、悪運強く育ってお屋敷に行儀見習いに行って、徳兵衛という武士といい仲になり、不義密通で心中だ。心中の本場の向島で身を投げて、死体が上がって検死の役人から差し紙が来たら、その時はまた検死場で会おう。はい、さよなら」と、言いたい放題。ああすっきりした、いい気分だと言い残して涼しい顔で帰ってしまった。
これを聞いていた与太郎の女房はくやしくて我慢が出来ない。与太郎になんとか仕返しをしろとせっつく。
都合よく翌月に熊公のかみさんが、女の子を生んだ。絶好のチャンス到来と、この間熊公に言われたことを全部言い返して、仕返しして来いと与太郎を送り出す。意気込んで熊公の家に行ったものの、口が良く回らない与太郎を尻目に、先回りして熊公は与太郎の言いたいことをみんな言ってしまう。
やっと戒名にたどり着いで、お七とつけたと聞き、お屋敷奉公から徳兵衛との心中事件までを何とか喋った。熊公は心中は「お初徳兵衛」で、「お七徳兵衛」なんて間抜けな心中はないと、嫌な顔もせず、縁起なんか悪くはないと、しゃあしゃあしている。「まごまごしてると、ここに早桶が出来ているから、中に入れて焼き場で焼いちまうぞ」と脅かされ、哀れ与太郎さん返り討ちにあってすごすごと家に帰って来た。
熊公とのやりとりを聞いた女房はくやしくて歯ぎしりだが、赤ん坊の名を「お七」と聞いて、「昔、本郷二丁目の八百屋の娘お七は、吉祥寺の小姓の吉三と会いたい一心、娘心のあさはかさで、我が家に放火し、恋の遺恨で釜屋武兵衛に訴人され、江戸市中引き廻しの上、鈴ヶ森で火あぶりになった。おまえの娘もお七なんて縁起の悪い名前をつけたから家に火をつけるぞ」と言って来いと与太郎をけしかけた。
かみさんからセリフの稽古をつけてもらって、今度こそと熊公の家に乗り込んだ与太郎だが、「火事だ・・・昔の話だ・・・本郷だ・・・八百屋でこしょうをなめた・・・娘心の赤坂で・・・」、支離滅裂、自分でも何を言っているのか分からない始末だ。
あきれた熊公、「てめえの言いたいのは、”昔、本郷二丁目の八百屋お七は、吉祥寺の小姓の吉三・・・・・・・おまえの娘もお七なんて縁起の悪い名前をつけたから家に火をつけるぞ”と、こう言いてぇんだろう。さあ、うちのお七が火をつけたらどうするんだ」
与太郎 「うぅん、だから火の用心に気をつけねえ」
|