「両国八景」


 
あらすじ 居酒屋で小僧をからかいながら飲んでいる熊さん。もう店を閉めると言われながら、もう一杯、もう一杯と中々帰ろうとしない。

 そこに入って来た兄貴分の虎さんが勘定を払って熊さんを連れ出す。熊さんは、「湯の帰り道で持ち合わせが無いのでまぬけなやつが来るまでねばっていた」、との言い草だ。

 酔ってずっこけそうな熊さんを抱えるように両国広小路まで来ると、今日は両国の川開きで花火も上がり、見物客で賑わっていて、いろんな店が出て香具師が大きな声で口上を並べている。

 熊さんはよろけながら、ひとだかりのしている店の前に立ち止まる。
薬売り 「さあさあ、人間は病の器だよ。トロトロッと眠ると高いとこから落ちる夢を見る。全身にはびっしょりと汗をかいている、こういう時はご用心だよ。ここに解剖図が掛けてあるだろ。これが人間の内臓で、上から肺臓、心臓、腎臓、肝臓、・・・、これを合わせて五臓六腑という。この穴が一つでも塞がれば歩けなくなる。手前ここに持ちたる五臓円の練り薬、これを舐めてごらんよ。気持ちがパーッとして、精神がさわやかになり、どんな難病でもよく治る。いつもは二十文だが、口開けのお客さんに限り十文にしておく。だれかお試しなさるかな」、「お試しくれ・・・こりゃいいね。酒の肴になる。もう一辺おくれ」、あわてて虎さんが引きずり出した。すぐに熊さんはまた店の前で止まって、

接ぎ粉屋 「さあさあ、皿を割った、丼を割ったときは、焼き接ぎ屋に持って行けば三日四日と時間がかかる。そんな時にはこの早接ぎの粉があったらご重宝。まず、この板に粉を乗せて水を一、二滴垂らし良く練る。どうだもう下の板がくっついてくる。今日はこの欠けた湯呑みを接いで見せよう。この薬を欠けた所に薬を惜しまずに塗って、グッと押さえつける。薬がはみ出した所はヘラでそいで取ってもらう。錦絵のお皿や丼に接ぎ跡が残って嫌だというお方は、おまけにあげるこの金粉を刷毛に付けてちょちょいと塗ると、金の早継ぎと変わったね。このまま冷やせばけっこうなのだが、お急ぎの方は火であぶっていただければ早く乾いてくっつく。・・・いつもは二十文だが、今日は口開けのため十文だ。誰かお試しなされる方はないか」

熊さん 「おお、お試しなさるよ。・・・こりゃ色が悪いな。でも味に変わりはねえだろ」と、接着剤を口に入れた熊さん、もぐもぐと噛んだがすぐに固まり始めて口がくっついて開かなくなって泣き出した。

 虎さんが接ぎ粉屋からヘラを借りて熊さんの口の周りをそいで、
虎さん 「上唇と下唇を持ってパットはがしてみろ」、熊さん、上下に唇を引っぱるとやっと口が開いた。

虎さん 「すまなかったな。お詫びに一袋もらって行くよ。いくらだ」

接ぎ粉屋 「へえ、十文でございます」、


虎さん 「十文?バカに安いな」

接ぎ粉屋 「へへっ、口開けは半額でございます」



落語『たがや


両国橋(「絵本江戸土産」広重画)
右は薬研堀で元柳橋が架かっている。



隅田川花火大会(ウィキペディアより)


        

638(2018・1)




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