「テレテレテレ」
★あらすじ 本町の薬種店の若旦那の徳次郎、何十回と見合いをしているが、気に入った嫁が見つからない。女嫌いでもなく、意中の人でもいるのかと聞いてもそれないようだ。
父親の大旦那は上野、浅草、向島などを歩いてどんな女性がいいのか、嫁にしたいか見て来いと勧める。
小僧の定吉を連れて出掛けた徳次郎はキョロキョロと若い女の顔を見ながら歩いている途中、花川戸あたりで幇間の一八に出会う。事情を話すと一八は女を見る目なら自信あり、おまかせと、くっついて来た。
一八が言うには盛り場を歩いている女は浮気者、金使いの荒い者が多いから、墓参りに来る先祖思い、親思いの心がけのよい女の方が嫁には向いていると言って、方向転換して谷中の墓地へ行く。
墓地の中をぐるぐると廻った若旦那は、ある墓石の前で花を手向け、長い間、手を合わせている若い女が気に入ってしまう。一八が天王寺の門番に聞くと、三味線堀の医者の山井養仙の娘だという。
一八はここが忠義の見せどころと、徳次郎を上野山下の茶店で待たせ、定吉と山井養仙の家に行って嫁取りの談判だ。
一八 「・・・どうかお嬢さんを若旦那のお嫁さんにしてください」
養仙 「お前、わしをからかいに来たな。ふざけたこと言わずにすぐ帰れ」と、取り合わないが、
一八 「ふざけてなんていらゃあしませんよ。若旦那がお嬢さんを見染めたんですから・・・」と、粘るので、
養仙 「そうか、相分かった。だが一度決めたからには決して変更はしないから、しかと心得よ」と、念押しして娘を呼んだ。
なんと出て来たのは不器量、不細工、遠山政談のお染さん顔負けの娘で、口もよくきけないようで、何を言ても、「テレテレテレ」にしか聞こえない。びっくりして、
一八 「このお嬢さんではないんで。もう一人のお嬢さんのほうで・・・」
養仙 「馬鹿なこと言うな。娘は一人しかおらん」
一八 「天王寺の門番がたしかにここの娘さんと言いやしたんで・・・」
養仙 「お前たち、その門番にからかわれおったな。不埒な門番だ、勘弁ならん!こらしめてやるから一緒について来い!」と、えらい剣幕でそばにあった薬の匙(さじ)を一八に投げつけた。
一八と定吉はあわてて逃げ出して茶店に駆けつける。徳次郎に顛末を話し、
定吉 「医者が後から追いかけて来ますから、若旦那はどこかに隠れてください」
一八 「なに、もう大丈夫でげすよ」
徳次郎 「どうして大丈夫なんだ?」
一八 「医者が匙を投げて寺へ参りました」
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天王寺
谷中天王寺の突き富
谷中墓地
谷中天王寺(「絵本江戸土産」広重画)
天王寺五重塔(昭和32年7月6日放火により焼失・右) 「説明板」
天王寺
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