「田舎芝居」


 
あらすじ ある田舎の村で鎮守の八幡様のお祭りが近づいて来た。隣村でやっていた村芝居をおらが村でもということになったが、何せ芝居のやり方の細かい事を知っている村人はいない。

 隣村の連中に聞くのは癪だし恥じだと、世話役が江戸へ出て下谷稲荷町に住む中村福寿という馬の足専門の下回り役者を安い金で雇って連れて来た。

 下回りとはいえ福寿はさすがは江戸の役者だ。万事、村人を指導、教育、稽古して村祭りには忠臣蔵を出す運びとなった。

 祭りの前日、最後の稽古も無事に終えて、衣装などを虫干ししてあとは明日の本番を待つばかり。ところが温かい師直烏帽子の中に寝床と間違ったのか大きなが入ってしまった。

 さて当日、忠臣蔵の幕が上がり、大序の兜改めの場となって師直役の福寿が烏帽子を被って登場だが、蜂に刺されて、「あっ、痛えてててぇ・・」と、あわてて烏帽子を取ったが頭はみるみるうちにぼこぼこにはれ上がってしまった。

 見ていた村人は、「さすが江戸の役者はえれえもんだ。師直が福助(と中村福助の塩冶判官)に早変わりしただんべ」

 四段目の判官切腹の場となって、「力弥、力弥」、「ははぁ~」、「由良之助は?」、「いまだ、参上、仕りませぬ」、「存生 (そんじょ~)に対面せで、無念なと伝え」、「ははぁ~」、まさにクライマックスだ。

 判官が九寸五分を取ってずぶりと腹へ突き刺すのを合図に、花道から諸士が出て来るのだが、諸士の役になった村人たちは気楽で呑気なもんで、日向ぼっこしたり、屋台を食べ歩きしたりしていて出て来ない。

 やっと頭のはれも引いてきた福寿があわてて、「諸士はどうした。諸士の出番だ。諸士の出だ!」と大声でわめくと、そばで昼寝をしていた五段目の猪役の男が、ショシとシシを聞き間違って、あわてて舞台へ飛び出した。

見物人① 「あんれまあ、四段目にシシが出る芝居なんぞ聞いたことねえぞ」

見物人② 「そうではねえ。さすがに江戸の役者は指導が細けえ。五万三千石の殿様が腹あ切るだから、故郷の山の猪(しし)がいとま乞いに来ただんべえ」

 とんとん拍子に?に五段目に入っていよいよ猪の出番となったが、小道具が口火をなくしてしまったので、いつまで経っても鉄砲が鳴らない。定九郎役の村人はいい加減にじれったくなって、「鉄砲!」と怒鳴った。とたんに口に含んでいた卵の殻がはじけて口中血だらけになったから見物はびっくり。

見物人③ 「ようようどうした、定九郎、鉄砲は抜きだべか?」

定九郎 「う~ん、今日は吐血で死ぬべえ」


  
                              高師直 五段目の猪、一人だけ入って前足は作り物
                                       『歌舞伎の馬、猪、四天』より



「忠臣蔵 大序」(広重画)


        

662(2018・2)




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