「片側町」


 
あらすじ 芝居好きの髪結床の親方が、芝居好きのと話しながら顔を剃っている。
客 「・・・親方は生世話物がいいかい、浄瑠璃物が好きかい?」

親方 「芝居とくりゃあ何でもいいんで。もちろん始めは狂言より役者の頭を見て、あの銀杏はよく結えているとか、市川流の髷(まげ)はどうだとか、誰それの豆本多はいいとか、そんなとこばかり見てましたが、・・・今じゃ番立から見なきゃ気が済みません。脇狂言、一番目の序幕、たいがい早大拍子で幕が開く。テケテッテッテ、スッテッテレツク・・・」、段々と話に夢中になってきて、

客 「ちょっと、親方待ってくれ。剃刀持ってるから、気ちげえに刃物持たせてるようなものだ。頭ひやりとしたが、やりゃあしねえか?」

親方 「すみません。いつもの櫛のつもりで、ぽんと一つやりました。剃刀で・・・」

客 「背のほうか?」、「それが刃のほうで・・・」

親方 「切れやしねえか?」、「ちょっと一寸ばかり」

客 「冗談じゃねえ、血が出たろう」

親方 「血止めの烏賊の甲羅をこう振りかければ、血の止まるのがおかしかろ」

客 「おかしかろうもねえもんだ」

親方 「なんのこれしきのかすり傷」

客 「ふざけちゃいけねえや。もう芝居の話はよしとくれ」

親方 「もうよします、よします。剃刀持ってるあいだはだんまりだんまり・・・あっ、だんまりで思い出した。三幕目のだんまり、五三桐の五右衛門、大百(だいびゃく)で南禅寺の楼門に上がったところはたまりませんねえ。この頃は五右衛門は銀の延べ煙管(きせる)を持つが、どうも自来也のように見えていけません。村田の看板のようでも真鍮のねじった煙管の方がようございます。・・・南禅寺の楼門がせり上がるんだ。・・・煙管を持って絶景かな、絶景かな、・・・楼門がまた上がって、霞の幕を切って落とすと、巡礼姿の久吉が、石川や浜の真砂は尽きるとも、”何がなんと”、世に盗人の種は尽きまじ、五右衛門がエイッと投げる手裏剣を柄杓でぽんと受けて、巡礼にというところで、カチと柝頭ご報謝と、柝がきざみになって拍子幕、かかかかか、すぅ~っとこの幕を引くのがなんでもないようで、なかなか骨の折れるのもので・・・」

客 「おい、親方、剃刀を止めておくれ、何が、かかかかか、だ。人の頭で幕を開けたり閉めたりするやつもねえもんだ。・・・あっ、馬鹿に長い毛が落ちてきたぜ・・・」

親方 「今の幕切れで鬢(びん)剃り落としてしまった」

客 「冗談じゃねえや、これじゃみっともなくて表が歩けやしねえ」

親方 「当分、片側町お歩きなさい」

 



橘家圓喬(四代目)の演じたものの後半部分で、前半は『浮世床』とほぼ同じです。(「名人名演落語全集第四巻」)
無精床』からつなげる人もあったが、本来は別の噺で音曲噺に属するものともいう。

片側町は道の片側だけに町家が並んだところ。真景累ヶ淵に、「師匠(豐四賀)は寝ついた様子だから、その間に新吉はふらりと外へ出ましたが、若い時分には気が変わりやすいもので、茅町(現・池之端1丁目)へ出て片側町池之端仲町)までかかると、向こうから提灯をつけて来たのは羽生屋の娘お久という別嬪」とある。




浮世床(式亭三馬)(国立国会図書館デジタルコレクション)



池之端仲町
北側(左側)は不忍池で町家はないから片側町


落語『浮世風呂


        

654(2018・2)




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