「お祭り佐七・雪とん」


 
あらすじ 元久留米藩士の飯島佐七郎は武芸にすぐれ、しかも美男子。女にもて過ぎたため、家中の妬みを買って讒言、流言を受けて侍が嫌になり浪人となって家を飛び出し、父親が世話したことがある芝神明町火消、め組の頭(かしら)の清五郎の家に転がり込んでの居候の身。

 もともと火事が大好きで、清五郎に火消しにしてくれとせがむが、火消なんぞは武士のやる仕事ではないと、にべもない返事で断られ続けている。それでも佐七郎は頭のところの若い火消とは仲が良く、人気もあり、みなから一目置かれている。

 ある日、若い連中に誘われて品川宿の遊郭に遊びに行く。散々飲み食い、遊び過ぎて勘定が四両三分も足らなくなってしまった。佐七郎はみなを先に帰し、一人で居残りをすることになった。

 頭は二、三日、佐七郎の姿が見えないので、若い者たちを呼んで品川でのいきさつを聞く。若い者に小言を言って、勘定を持って迎えにやろうとしていると、佐七郎が雑巾をぶら下げて帰って来た。

 左七郎は遊郭の廊下の雑巾がけを買って出て、そのままとんずらして帰って来たと言う。佐七郎は油臭い行燈部屋に押し込められ、白粉と垢だらけの湯にしか入ってないのでさっぱりして来ると湯屋に出掛けた。

 若い連中は頭に、佐七郎を是非とも火消しにしてくれと頼む。
若い者 「佐七の旦那は優男に見えやすが、さすがは元は侍で、この間、町内の米屋の四紋竜という仇名の大男の暴れ者をからかって、四紋竜が怒って殴りかかるところをひょいとかわして、肩にかついで投げ飛ばした。四紋竜は金物屋を通り越して、その向こうの砂糖屋まで飛んで行って砂糖漬けになっちまった。見物人はいい気味だ。四紋竜のやつ、砂糖漬けになりゃあがった。ほんとに甘え野郎だって、やんやの喝采。佐七の旦那は、四紋竜を引きずりだして、エイッと鯖(さば)を入れやした」

頭 「何だ、サバってのは?」、横から、「鰹(かつお)だろ」

若い者 「ああ、そうそう、鰹・・・活を入れたんで。気がついた四紋竜に佐七の旦那がもう一丁もんでやろうかと睨んだら、四紋竜のやつ、尻尾丸めてすごすごと逃げて行っちまった。佐七の旦那は金物屋へ放り込もうと思ったが、あすこじゃとんがったもんがあって、顔でも破くといけねえから、砂糖屋へ放り込んだのよ。相手が乱暴な野郎だから、砂糖漬けにしたのは正当(精糖)防衛だって笑っていやした」

 頭はまだ佐七郎が火消しになることを許さなかったが、女たちがみな振り返るほどの男前で、木遣りなんかも上手く、となるとあちこちから声が掛かって、どこの祭でも佐七郎の姿が見えたことから「お祭佐七」と呼ばれるようになった。

 佐七と違って金はふんだんにあるが、女には縁にないのが佐野のお大尽の兵右衛門さんだ。馬喰町の旅籠に泊まって江戸見物をしているうちに、両国広小路本町の糸屋の本町小町お糸さんを見染めてしまった。

 兵右衛門さんは馴染みの柳橋の船宿の女将にお糸さんとの取り持ちを頼む。女将も困ったが大事なお客でもあり、礼金もはずむというので、お糸さんの女中を買収し渡りをつける。

 夜に兵右衛門が裏木戸をトントンと叩くのを合図に兵右衛門をお糸さんのところへ忍び込ませるという手筈にした。ところが運悪くその晩は大雪になって町の景色も変わってしまった。あたりを不案内な兵右衛門はどこを歩いているのか分からなくなってお糸さんの家にたどり着けない。

 一方、吉原へ遊びに行く佐七がお糸さんの家のあたりまで来て、下駄に挟まった雪を落とそうと裏木戸にトントンとぶつけたものだから、すぐに女中から家の中に引っ張り込まれる。

 何が何やら分からず、やっと人違いと分かって佐七は帰ろうとするが、そこへ出て来たお糸さんの別嬪さに目を見張った。こんな雪の中を高い金払って吉原なんぞで遊ぶ気なんぞすっかりなくしてしまった。お糸さんも佐七の男っぷりのよさに惚れ惚れで、すぐに二人は出来上がってしまった。

 さて、可哀想なのは兵右衛門さん、一晩中、お糸さんの家を探して雪の中を悪戦苦闘、雪だるまのようになってやっと見つけたと思ったら、裏木戸からお糸さんに見送られて若い男が出て来た。後をつけて行くと船宿の女将と立ち話をしている。

 佐七が行っちまってから女将に聞くと、「あれは火消しの佐七さんですよ。あんまりいい男なもんだから佐七さんが歩いていると近所の娘たちが取り巻いて、まるでお祭のようなので、お祭佐七と呼ばれているんですよ」

兵右衛門 「えっ、お祭りだって。それでおれがダシ山車)にされた」


    
        

三遊亭圓生の『お祭り佐七【YouTube】

古今亭志ん生の『雪とん【YouTube】




芝大神宮
祭礼は11日間も続く「だらだら祭り」(生姜祭り)

「芝大神宮」  

飯倉神明宮(江戸名所図会)



590(2017・12)




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