「きめんさん」


 
あらすじ 紀伊国屋綿店の若旦那は道楽が過ぎて喜兵衛の家に居候の身。毎日ぶらぶらしているが、喜兵衛もいい顔をせず、易者でもやって見ようと思い立って、名前を晴明とつけいい加減に易道具を揃えて開店する。

 晴明の名前につられたのか、易にでも頼るしかない亡者ども多いのか、これが意外と繁盛し客が絶えない。若旦那も調子に乗って口から出まかせを言って銭儲けしている。

 ある日、亭主が穴っぱ入りばかりして癪にさわるので、いっそ別れたほうがいいか見てくれと、女の客が来た。適当に筮竹を数え算木を並べて、

若旦那 「はい、出ましたよ。お前とお連れ合いとは性が合わない。すぐに別れておしまいなさい」、だが、これが横丁の鳶の頭の女房で、すぐに若い者が飛んで来て、「今晴明てえのはてめえか。うちの姉御にとんでもねえこと抜かしやがって、この野郎!」と、いきなり頭を拳骨でボコボコに殴られた。

 若旦那、一抜けた、もう易者はこりごり、やめたと商売替え。こんどは医者村井長庵に名前を変え、看板も「内外診察所」にかけ替えた。薬もなくちゃいけねえと、「紀綿散」なる得体のしれない粉薬を用意していると、早速患者がやって来た。

患者 「陽気の変わり目のせいか、腰が痛くて仕方ありませんので・・・」

若旦那 「そうか、では脈を見るから手を出して、・・・舌を出してごらん。・・・それで鼻の頭が舐められるか?・・・舐められない。・・・ははぁ、あなたは疝気ですな。この薬をお飲みなさい。診察代と薬代で二十銭、置いて早くお帰り、はいさようなら」、もう藪医者どころではない、鷺(詐欺)医者だ。

喜兵衛 「今来たのは女ですよ。雄雌の区別がつかないんですかい。二十日鼠じゃあるまいし。悋気は女の慎むところ、 疝気は男の苦しむところで、女の苦しむのは寸白ですよ」

 こんな医者にも藁にでもすがる思いで頼って来るからやめられない。隣町の近江屋から長病の主人を診てくれと迎えが来る。

 喜兵衛を弟子に仕立てて近江屋へ乗り込んで、病間に通されて病人の脇に寝ている老犬の脈を取って、「だいぶお痩せになって、毛むくらじゃにおなりで・・・」

女将 「・・・病人は放屁を好んでいけませんのですが、いかがいたしたものかと・・・」

若旦那 「そうですな。ホウヒと言えども食欲があるのは結構なことですよ。せっかくお好みになるのですからたんとはいけないが、薄く二切れぐらいに切ってね、味噌汁なんかに入れておやりなさい」、女将さん思わず、「うふっ」。

 次に呼ばれたのが蔵前万屋で、相変わらずいい加減で、頓珍漢な診察をして帰ろうとすると、
奥さん 「先生、どうぞお茶を一服召し上がって・・・」、奥さんが点ててくれたくれたお茶を作法みたいに飲んで、「・・・これはこれは、風味といいまことに恐れいったもので・・・、これくらいにお点になるにはさだめしご流名も定まっておられましょうな」と、少しはかっこいいことも言うと、

奥さん 「どういたしまして、私などは主人の見よう見真似で点てておりますので流名などは・・・」

若旦那 「ほお、ご主人のご流名は?」

奥さん 「千家でございます」」

若旦那 「それでは奥様は寸白でございましょう」


 

「きめんさん」の由来は、①伊国屋綿店の若旦那が「きめんさん」と呼ばれていた。それが調合したので薬が紀綿散。
②若旦那が鬼面山谷五郎という力士に似ていた。
③若旦那が調合した薬が強すぎるので、何と言う薬かと聞かれて「関取(咳取り)で強いのは、きめんさんです」と下げた。
(「落語事典」・「名人名演落語落語全集第六巻」より)



        

672(2018・2月)




表紙へ 演目表へ 次頁へ
アクセスカウンター