★あらすじ 駕篭屋には店を構えた宿駕篭、今のハイヤーみたいなものと、町を流して歩くタクシーのような辻駕篭があった。
幕末の世の中がぶっそうな頃、徳川方に味方する軍用金にするという浪士の追いはぎが吉原行きの金を持っている客を狙って蔵前あたりに出て、客を身ぐるみ剥(は)いで行った。
暮れ六つを過ぎると駕篭屋は怖がって蔵前を通りたがらない。神田、日本橋から吉原へ行くには蔵前を通らねばならず、こうなるとどうしても吉原へ行きたくなるのが助平の江戸っ子だ。
芽町の駕篭屋江戸勘に吉原まで行ってくれと威勢のいい男がやってくる。蔵前あたりで追いはぎが出るので暮れ六つ過ぎは駕篭は出せないという。男はうまく吉原まで行ったら一晩一緒に遊ばせる、もし追いはぎが出たら駕篭をほっぽり出して逃げ出してもかまわないから行ってくれと引き下がらない。
駕篭屋はなおも渋っていたが、男に情けない江戸勘は腰抜けだ言われて、そこまで言われりゃ面目丸つぶれなので駕篭を出すことになる。
男は支度があるといい奥へ入り着物を脱ぎ、褌(ふんどし)一丁の格好になり着物を駕篭の布団の下に置き駕篭へ乗り込む。これを見た駕篭屋は女郎買いの決死隊だとびっくり。風を切って行くから冷えますよというと、男は向うへ行きゃあ女の子が親子共々暖めてくれるなんて相変わらず脳天気で元気一ぱいだ。
いざ駕篭を出すと酒手がはずんであるから威勢がいい。「ホイ駕篭、ホイ駕篭」と蔵前通りを天王橋を過ぎ、榧寺あたりまで来ると追いはぎが現れる。駕篭屋は駕篭を放り出し一目散に逃げてしまう。
黒覆面をして抜き身をぶら下げた追いはぎの一身が駕篭の回りを取り囲む。
追いはぎ 「我々は故あって徳川家に味方する浪士。軍用金にこと欠いておる。身ぐるみ脱いで置いて行け。武士の情けだ襦袢だけは許してつかわす。中におるのは武家か町人か・・・」、返事がないので駕篭を開けると、褌一丁の男が腕組みしてあぐらをかいて坐っている。
追いはぎ 「うむ〜ん もう済んだか」
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